8/02/2012

えーちゃん,2011summer



 晴れ。涼しくなるようなことが言われていた今日、期待はずれで昼間はちょっとバテた。
 ちょうど一年くらい前、自分にとってはすごく意味のある夜があった。夜バイトを終えて、久しぶりに友人Hくんの家に行こうと思い立って行ったらその人はいたのだった。あだ名はえーちゃんで、簡単に言うとギター弾きで酒飲みのおじさん。Hくんは庭関係の仕事をしていて、えーちゃんは何かの職人さんだったと思う。途中からHくんが長電話をしていた間のえーちゃんと二人の時間、そのとき話していたことは今でもよく思い出す。彼はギターを弾きはじめた。それは本当にかっこよくてきもちのいい音で、夜にビールを飲みながらそんな音楽を聴けるだけでも最高、と思える時間だった。その夜が初対面だったが気付けば、僕のこれからのこととか、写真をやっていくということとか、そんなことを僕らは話していた。というか僕が相談しているようなカタチになっていた。彼が一番つよく言っていたことは「女を本気で好きになれ」だった。自殺したいくらい女を好きになれ。本気で愛して、本気で傷つく。写真家や絵描きにはそれは絶対肥やしになる、と。そして続けて、アーティストは自分の生活を切り売りする覚悟がければならない、とも言った。自分は歌詞が書けないからギターを弾くだけで、だからただのプレイヤーなんだ、と。けど彼の話とギターを聴けば、十分にその音には彼の人生が入っていることがわかった。
 写真は特に、生活しているから生まれてくるものだと思う。僕はそのスタンスでいたい。先日友人が写真家の藤代冥砂さんの写真集を見せてくれた。主に自分の奥さんを撮影した本で、「家に帰ろう」というタイトルだったか。家に帰ろう2という二冊目も出ていて、何度も見掛けたことはあったが、正直なんとなく興味を持てずにむしろ避けていた本だった。まだこないだはパラパラと見た程度だが、静かに感動した。写真に添えられる簡潔な言葉がとても豊かでしっくりきた。近いうちに手に入れてゆっくり見たいと思う。
 えーちゃんとはそれっきりだが、僕の中ではたまに思い出したい大事な存在だ。ここには書ききれないくらいたくさんの大切なことを伝えてくれた。それは本当にタイミングのいい出会いだった。愛知で次に展示をする時は絶対来てもらいたい。そのときの僕の写真を見てどう思うだろう。できればその感想は、またHくんの家でビールを飲んで屁をこきながら話してほしい。