10/21/2012

Topanga Canyon~Big Sur

Topanga Canyon
After surfing, North Malibu
Big Sur

 マリブの海岸線から山道を上がっていくと、トパンガキャニオンという渓谷がある。トパンガのことは日本を出る一か月前、たまたま本屋で見つけたCASA BRUTUSのカリフォルニア特集号を読んで知った。山の中にセルフビルドの小屋がいくつか建っていて、そこに個性的な住人たちが暮らしている、すごく興味の湧く記事だった。読んだその時から絶対にここには行きたいと思っていて、その住人のひとりである日本人の写真家、武藤彩さんと連絡を取ることができたのは一週間ちょっと前のことだった。そしてサンフランシスコへ向かってくる前、ちょうど一週間前の土曜日の夜にトパンガキャニオンの小屋へお邪魔した。
 もっと山奥の他に何もないような環境を想像してけど、道路沿いにたまにお店があったり家もちょこちょこ建っていて、意外と人の生活を感じられる場所だった。海岸線から10分ちょっと走り、メインストリートから一本入って行った先が教えてもらっていた住所だが、そこまで行くと真っ暗で何も見えない。言われていたように路肩に車を停め電話をするが応答がなく、数分闇の中をぶらぶらしていたら一台車が来て、僕のすこし後ろに駐車した。声をかけるとナツコさんという日本人の女性で、同じくアヤさんの小屋へ遊びに来ているということで後について歩いて行った。その時は謙虚に「ちょっとカバンをつくったりしてる」という程度にしか言っていなかったが、後でアヤさんに聞くとMe&Arrowというブランドを持っていて、結構がっつりといいカバンをつくっていることを知る。
 懐中電灯で小道を照らしながら歩いて行くといくつかの小屋が見えて来て、その先の特に小さい小屋がアヤさんの暮らす小屋だった。そこにはパートナーのKyleも来ていた。数日前にそのKyleがやっているLittle Wingsというバンドのことを聞いて、YouTubeでライブ映像を見たりして気に入っていたので、その本人がいてすこし驚いた。隣に新たに自分たちで小屋を建てているカップル(General Storeというおしゃれな雑貨屋をSFとVeniceでやっている)もちょうど来ていて、その友人たちも集まっていたりすこしずつ人が増えて来て、最終的には10人くらいでホットドッグとビールを手に焚き火を囲んでいた。あまり積極的に話に参加していくことができないので(性格的にも英語力的にも)、たまに誰かとすこし話をしてはみんなの話に耳を傾けてひとり地味にビールを飲みつづけていた。半分くらいは理解できていないのだけど。その中でもアヤさんのすぐ下の小屋に期間限定で暮らしているMikeとの出会いは特にうれしいものだった。Mikeは去年までオクラホマで自分のコーヒーショップをやっていて、そこを売ってから西海岸へ来たのだという。ポートランドとサンフランシスコですこし暮らして来て、今はマリブのコーヒーショップで働いている。それに僕が好きな古いワーゲンのバンに乗っていたり、なんだか出会うべくして出会えたような気分。その晩はMikeの小屋のソファで寝させてもらった。
 翌朝すこし二日酔い気味だったが、それでも山の中の小屋で目覚める朝は最高に気持ちがよくて、自然とテラスに出て深呼吸したくなる陽気だった。それからMikeが淹れてくれたコーヒーとアヤさんが用意してくれた朝食をピクニックテーブルで食べる。これ以上の日曜日の朝はないだろうと思うくらい。それからすこしまったりしてからみんなでサーフィンをしにマリブへ。マリブの海沿いにカイルのお母さんが暮らしていて、なぜか僕もそこへ一緒にお邪魔したり、カイルの車の助手席に乗ったり、その後夕方にはお母さんも一緒にランチとディナーの間のような食事をしに行った。それからまたトパンガへ戻り、のんびり飲みながらおしゃべりをしながら更けていく夜。トパンガとマリブのフルコースのような一日を過ごして、再びマイクのソファで寝た。
 翌朝はアヤさんマイクと三人で朝食をとり、昼前にはそれぞれの生活がまたスタートした。トパンガも時間がゆっくり流れている場所だ。期待していた以上のものがそこにはあって、きっとそういう場所なんだなと、他の人たちもここにくるとそれを感じているんだろうなと、そしてそれを感じてここに暮らすことを選んでいる人たちなんだなあと、すこし理解できた気がする。そして何よりもその機会を与えてくれたアヤさんに感謝です。失礼な言い方かもしれないけれど、頼れるお姉さんに会えた、という感じ。仕事のことですこし忙しそうだったのに、こちらにも気を配って色々と教えてくれた。またゆっくりお話ができる日がたのしみだ。実際にトパンガで知ったこと、トパンガでの出会いから繋がっていきそうなことがいくつかあるのだ。出発してからマイクの働くコーヒーショップで会った友人は、サンフランシスコでスケート系の写真の展示などをやっているギャラリーを持つフォトグラファーの弟を教えてくれた。先に書いたGeneral StoreのSF店で話をしたスタッフのRicoは、僕が写真をやっていてコーヒーも好きだと知ると、おすすめの場所をいくつも紙に書いてくれたり、話していてすごく感じもよくて仲良くなれそうな感じ。彼がもうひとつ働いている古道具屋ではzineを見てもらおうとしたら、「見せてくれる代わりにコレ。トレードだよ!」と店の棚から商品の古い栓抜きを持って来て僕にくれた。なんて気持ちのいい男なんだ。
 トパンガで、今回の旅が始まってから自分が求めていたような人やものにやっと巡り会えた感じ。そしてそこから繋がりはじめたこと、繋がっていきそうなことがまたわくわくさせてくれる。そんなことが頭の中を泳いでいるときの、サンフランシスコへ着く前日のBig Surでのキャンプは最高だった。日が落ちて暗くなる間際にたどり着いた無料のキャンプ場は、ただ海沿いの道から丘を上がっていく「道」があるだけの、キャンプ場とは言えないような場所だった。それでも海が見える道の端に小さなスペースを見つけ、車を停めて急いでテントを張った。それからコーヒーを淹れて一息ついていると真っ暗になり、懐中電灯の明かりも消すと、果てしないくらいの星空に驚いた。寒くもなかったのでテントの外にバスタオルを敷いてしばらく仰向けになった。レンタカー最後の夜にそこに居られることもなんだか感慨深くて、今までで一番のキャンプ体験だった。翌日レンタカーをサンフランシスコの宿の前に数時間停めていたら、僕の看板の読み間違えで、最後の最後で駐禁をとられた。痛い出費なのだけど、なぜかそこまで落ち込まなかった。