4/30/2023

麦っ子への手紙

卒園式の終わりに、僭越ながら父母代表として保育園へのお礼の手紙を読んだ。
以下、その中から。

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過剰な安全や効率化を進める世の中で、僕らは「ほんとうのこと」に心を澄ませていたい、と強く願います。 そのために、自分たちで考え、思想を持つこと。 すぐに見える結果ではなく、おだやかに育まれていくもの、いつか芽が出、花咲くことを信じ、時間をかけること。

 そして、僕の好きなある映画(マイクミルズ監督『サムサッカー』)でのセリフで、
 「大切なのは、答えなしに生きる力だ」 
というのがあるのですが、ここではまさにそれを実践を通して見せてもらいました。 

もう一つ、人の言葉を引用します。 
人間には、二つの大切な自然がある。 
日々の暮らしの中でかかわる身近な自然、それは何でもない川や小さな森であったり、 風がなでてゆく道端の草の輝きかもしれない。
そしてもう一つは、訪れることのない遠い自然である。 ただそこに在るという意識を持てるだけで、私たちに想像力という豊かさを与えてくれる。 そんな遠い自然の大切さがきっとあるように思う。 
ご存知の方も多いと思いますが、星野道夫さんの言葉です。 僕はここに出てくる「遠い自然」を想像していると、「遠い友人」というものも思い浮かんできます。 すぐには会えないけれど、遠くにいる友人。かつて共に過ごした友人。 

これから子供たちも、僕たち親も、また新たな道へ歩みを進めます。 世の中ほんとうに矛盾することも多く、心を込めて生きようと願えば、少数派になることもあります。 そんな時にこそ、みこべとのんちゃん(園長夫婦)が誇り高く築き守ってきたこの麦っ子畑保育園という存在が、 ぼくらの心に勇気の火(※)を熾してくれるように思います。 そして子供たちの心でそれが燃え続けることを、なによりも願っています。

※初めて保育園にお泊まりをする夜、とある神様から勇気の火を与えられるというのがこの保育園の伝統。

2/21/2023

Good bye

 次に会ったときにはこんな話をしようとか、最近のことをこんな調子で尋ねてみようとか、すこしは頭の中にあったはずのことが、ひとつも口から出てこなかった。元気で、と言うのがやっとで、別れ際に挙げた手でそのまま軽くハイタッチをして見送った。そこにしか存在し得ない一瞬の間が、やけに後を引いた。短かったのか、長かったのか、どちらにしてもその月日の経過を決して悪くは思わない。さびしいなどとは、思わない。

10/12/2021

Old man and a little dog


Zama, KN, 2021

 

10/11/2021

Beach side hotel



Izu, SZ, 2021

3/12/2019

眺めの良い家



 頭の痛みがなかなかよくないからといって丸っと二日間も寝込んでいるのは悔しいので、すこし楽になった気がしてきた二日目の昼過ぎ、気晴らしに散歩に出た。あえて通ったことのない道を選んだのがなぜなのか、それどころか、ほとんど帰路については考えもせず遠くを目指そうとしていたあの時の気持ちはなんだったのか。途中、ズボンのポケットに手を入れたときに財布を持って来ていないことに気が付き、それほど遠くへ行くことはやめ、あの辺りまでと見当をつけて歩みを進めた。当てずっぽうに遠くを目指したと言っても、疲れたら帰りはひとつ先の駅から電車に乗って帰ればいいとどこかで思っていたのだと思う。
 今まで選んだことのない道を進んでいったのは確かだが、その先で見覚えのある道に繋がった。普段はそんな瞬間にはむしろ自分の地図が更新されていくようなよろこびを覚えるものだが、その日はなんとなく面白くない気持ちが勝った。知っている道を歩いても僕が発見したいものには出会えないと思った。何を探しながら歩いたということもないが、強いて言えば、この住宅地の間に細々と流れる用水路を伝って歩いていけば、曲がりくねった先に小さな喫茶店のひとつでも見つけて、近所のおじさんおばさん、あるいは大学生風の青年などがいてもいいが、そんな小さなこの町の社交場のひとつに出会えるかもしれないという期待は持っていた。
 
 その時点で今日の楽しみは終わってしまったような気もしたが、その先を曲がってかるく坂道を登り、今度は坂をすこし下って山道のようになった樹々の間の小道を歩いていく。またそこから登っていくと、すこし高台の、遠くの山並みまで見渡せるところに来る。そこからは樹々が邪魔して見えないが、下の広場はどうやら野球のグラウンドになっていて、大人も子供も混ざったような、草野球の様子が聞こえてくる。家を出るときに文庫本と手帳のどちらかを上着のポケットに入れようか迷った末に選んだ手帳を取り出して、この辺りで何かメモでも取ろうかと考えた。前にもここに腰掛けて、何か考え事をした記憶が蘇ってきた。そのときはイヤホンで音楽を聴いていたのだった。ここは、なにか自分の中の考えをまとめたりするのにいい場所かもしれない。しかしその日は、気がつくとまたすぐに立ち上がって歩き出していた。階段の下におじいさんが、きっといつもそのくらいの時間にやって来ているようなおじいさんが散歩していて、とっさに僕は立ち上がってしまっていた。どこかでいつも邪魔者にはなりたくないと思っていて、その気の弱さが僕をそこに座りつづけさせてはくれなかった。

 歩けばすっきりするかも知れないと期待した頭もまた痛みはじめ、もう遠回りはせず帰ることにした。この先はどうやっても、歩いたことのある道を進むだけだ。その途中で、さっき高台から見えた遠くの山並みが見渡せるような、眺めの良さそうな家が傾斜地に並んで建っている横を通った。どの家も考えることは似ていて、山の方角へ向かって、どんな気持ちのいい窓を、ベランダを、暮らしをつくるか、というようなことが見えてくるようだった。晴れた週末にはあのベランダや庭先で、家族はあたたかな日差しを集める、そんな季節がもうすぐやってくる。

 いまいち晴れない気分で帰宅すると、寝室でもういちど横になった。次に目を覚ますともうほとんど日は暮れていて、ぼうっとした目で起き上がると、窓からはまだわずかに最後の日を受けて赤味がかった薄い青空が見えて安心した。この家もすこしだけ高台に建っていて、二階の窓からはそれなりに季節の移ろうのを見ることができる。去年剪定しなかったリキュウバイはぷくぷくと、黄緑色の葉を伸ばしてきた。杉平と名付けた野良猫が、んぁーと鳴いて通り過ぎる。
    

3/10/2019

花が咲くまで



 はやぶさ2は2014年12月に打ち上げられ、約32億キロの長旅を経て、昨年6月に小惑星りゅうぐう上空に到着した。と、その日読んだ夕刊は伝えていた。

 出会ったばかりでも、ほんの数回言葉を交わしただけでも、昔からの付き合いのように感じる出会いがある。先日ひとりのそんな友だちとコーヒーを飲みながら、今いい感じの相手がいて、けれど付き合っていると言うのかどうかわからない。と、もしかしたら男女の関係の中では珍しくはないかもしれない話を聞いた。その晩にその相手と会うと言うので、「今晩はっきりさせよう!」なんて言ったことを振り返ると僕は恥ずかしい。同級生をからかうような、学生の頃のような気分で軽々しく言ってしまった。もっとも学生の頃にそんなことを言った記憶もないが。
 翌日になってもまだ僕は子供っぽく「どうだった?」なんてメッセージを送ると、友だちからの返事には、どうもこうも変わりはないけれど同じ気持ちだということはすごく感じた。それでいいのかも。と書かれていて、ようやく僕は自分の軽率さを恥ずかしく思い知り、同時に彼女がそんな姿勢でいることに安心した。

 今年も、庭の梅がよく咲いている。生まれ育った家にも梅の木があって、僕が大人になってそこを出る前にテキトーに剪定した次の季節、滅多に連絡を取り合わない父親からメッセージが届いた。------ 数は少ないですがきれいに咲いています。

8/15/2016

杉江玲子個展「小さい石」




杉江玲子「小さい石」

2016/8/24wed - 28sun // 12:00 - 19:00
at 町の港 HATOBA (西荻窪)
ザッツこと、妻の玲子がようやく初めての個展を開催します。最近作っているものを改めて見せてもらった時、その小さい石たちは愛らしく、あたたかく、そっと眺めていたい存在がそこにあることに嬉しくなりました。
僕はお義父さんの畑の片隅に建つ彼女のアトリエでの制作風景などを撮影し、小冊子を作ります。
遊びに忙しい夏、短い会期ですが、どうかご都合つけて観に来てください。よろしくお願いします!
Finally my wife Reiko is having her first solo exhibition this summer! Please come by if you are in Tokyo!







6/23/2016

LOGGER.CO.JP





ちょうど去年の今頃、茅ヶ崎の木材屋LOGGERの工房へ通い、彼らの仕事場を撮影していました。まだホームページを持っていなかった彼らが初めに手をつけはじめたのが、「自分たちの仕事場を撮ってもらうことで、自分たちがどんな雰囲気の中で仕事をしているのかということを示す」ことでした。僕としてもその提案が嬉しく、そして(大袈裟かもしれませんが)、そこからは彼らがどんなことを大切にして暮らしているのか、という価値観へも繋がる彼らの誠実な姿勢も感じられ、僕は撮影を続ける度に、彼らと交流を深める度に、一緒に仕事ができることを幸せに感じています。
その後も(まだすこしずつですが)彼らが内装材を提供した店舗などの撮影をして、いよいよホームページが公開されました。正直に言うと僕がここでの告知をしていなかっただけで、先の冬に公開されていました。
僕は写真係としてロガーの3人目の社員のような気持ちでいます。どうぞ今後とも、LOGGERをよろしくお願いします。

LOGGER.CO.JP

6/23/2016

6/15/2016

色褪せない日



子どもの頃の懐かしい景色だったり、ある夏の日に旅先で見たような景色を何度も、何度も思い返す。これから先も何度も思い返す。そしてもう一度その景色を見たいと、いつか近い将来の日々に思いを馳せる。
夏が来ると思い出すことがたくさんあって、その分たくさんの夢を思い描くことになる。

6/15/2016

1/07/2016

THE QUIET LIGHT



 先日初めて聴いたKaren Daltonというミュージシャンにすこしだけ思いを馳せる。と同時にアメリカという土地に思いを馳せている自分がいる。あの遠い場所で見た光が残っている。それは自分が見たものでもあるし、映画で見たもの、あるいは誰かの文章から想像したものかもしれない。その光はとても静かで、そしてなんだかすこし埃っぽい。そこになんとも言えない、どうしようもない憧れを抱いて思い出したり思い描いたりできるストーリーがある。そんなふうにその光が自分の中でまた瞬くとき、そこにはただの光景だけでなく幾重にも重なった自分のそれまでの思い出や気分が蘇る。また旅に出るのは、そんな静かな光を自分の中に集めていきたいからかもしれない。


'THE QUIET LIGHT'
sat.1.23 - sun.2.7.2016 at LOCAL optical shop, Yokohama
[Opening Reception] sat.1.23 20:00-22:00