4/22/2013

J-COOKという居場所

暮しの手帖63 4-5月号「彼女のチカラ」

 敦子さんは僕と同じあっちゃんというあだ名で、そうでなければまた少し付き合い方も違っていたかもしれない。三年前に初めての個展を東京の神宮前/外苑前、TAMBOURIN GALLERYで行ったときに敦子さんと知り合うことができた。フラッと立ち寄ってくれた"近所のお母さん"という印象を受けたのは、間違いなくエプロンを付けたままだったからだろう。そしてもちろんその時は、あんなにいいカフェを営んでいる人だとは思いもしなかった。まあ近所のお母さんというのは、それはそれで正しいのだけど。
初対面の近所のお母さんは、僕の作品もちゃんと観て、感想も聞かせてくれて、色んなことを知っている人なんだ、というのが伝わった。そうしてすこし言葉を交わした後には「この人は絶対おもしろい人だ」という気がして、改めてそういうことに気付くと、エプロンも含め、服装や話し方、その雰囲気にセンスの良さを感じた。ギャラリーの濱口さんから、敦子さんが近所でカフェをやっていると聞き、コーヒーだけだったかランチを食べに行ったのが、僕の初めてのj-cookだった。友人が来るとコーヒーを飲みに行ったりランチを食べに行ったりした。当時、東京のほとんど知らない場所に一週間出て来た僕には、そんなふうに友人を気楽に連れて行けるカフェは大きな存在だった。
 翌年から神奈川に暮らすザッツとの付き合いも始まり、関東に出てくる機会も増えた。当たり前のように彼女にとってもお気に入りの店になり、東京に出る度に、いつからかその日の行程に「j-cookに寄る」ことを自然と入れるようになっていた。通うごとに敦子さんとの距離もより近くなっていき、それでも近寄りすぎないちょうどいい距離感を保ってくれる姿勢が、さらに居心地のよさを与えてくれた。そしてそのラインを少しだけ越えたのが今年の初めだった。小さなホームパーティーに呼んでもらえたのだ。そこでは人生の先輩方との出会いがあり、ビールとワイン、そしてj-cookのシェフであり旦那の年秀さん(トシちゃん)の料理をつまみに食べる贅沢な夜だった。気持ちよくすこし酔っぱらった。トシちゃんとはそれまで毎回、店に入ったときと出るときにすこし会釈を交わす程度だったので、みんなと話しながらニコニコしている様子が見られてうれしかった。まだ僕はあまり話ができていないけど、トシちゃんとの距離感はこのくらいがいいのかもしれない。なんて。そんなのは嘘。ちゃんと話ができたら絶対におもしろいことは知っている。その時までは、あの会釈が心地いい。
 昨日は夕方から青山エリアに出掛けたのだけど、時間が遅くてj-cookには寄れなかった。(日曜日は閉店時間がすこし早い。) 夜は、先週名古屋まで展示を観に来てくれた東京の友人と会った。ご飯を食べてコーヒーを飲み、先週会場で買うと言ってくれた作品を引き渡した。(ありがとう!!) その友人と去年はじめて東京で会った時に待ち合わせたのは、j-cookだった。去年から神奈川に越して来て、東京にもこうして月に一,二回出て行くようになっている。j-cookに通えるのは二か月に一度くらいだけど、気分だけは常連客だ。これからもその場所が変わらずあり続けてくれることで、東京に出ても僕は自分のリズムをつくっていける。