THAT SUMMER AND THIS SUMMER






 夏が来ると毎年、かつて自分が過ごしたいくつかの夏を思い出す。そのほとんどは旅にまつわる話で、僕の中では夏は旅に出る季節だった。ただただ時間だけならつくり出すことができる、そんないくつかの夏を過ごして来たのだった。バカっぽい考えだが、日に焼けた肌の色はその夏をどれだけ楽しんでいるかを表すバロメータのようにも思っていたし、とにかく外へ出て行くことが大切だったのかもしれない。夏が僕に与えてくれたものはとても大きい。
 今の生活を客観的に観察してみると、あまりそんなスタイルを続けているようには見えない。続けていないのか、続けられていないのか、という話になるとひと言では片付けられない。ただ、ここには、部屋に流れる空気を心地よいと感じる休日や、今、目の前の窓から静かに入って来た梅雨の曇った日の、すこし涼しい風にクチナシの香りを感じるような夕方がある。
 答えを出すつもりは無いし、第一、すぐに言葉で答えを出そうとするのは苦手だ。すこしだけ見え始めたものを目指していけば、あの頃のように期待以上の場所へ行けるのだろうか。そうやって歩いて来た先が今なのだとしたら。
 窓の外に緑が見える部屋はいいなあと改めて感じながら、友人へ季節のお便りのようなものを書こうと思っているところ。もうすぐ夏本番。