8/22/2012

手塚くん

 晴れつづける。お盆休み中にあまり日に焼けなかったのですこし皮がめくれて、そしてまた仕事が始まって日に焼ける日々。お風呂ですこしひりひり。
 小学5年生の時だったと思うが、その年に急に仲良くなった友人がいる。彼は手塚くんと言って、運動がよくできて、体格がよく、恥ずかしがり屋で、しかし気の強い男だった。ぼくは彼のことを転校生だと思っていた。なんせ小学5年生まで全く彼の存在を知らなかったのだ。それは今思い返しても不思議な話だ。しかも家も大体同じ方面で、帰り道は途中まで一緒に歩いていけるようなところに住んでいたのに。中学生になってからは学校の外でもよく一緒に遊び、サッカー部だった僕らは部活が休みの日でも近所のグラウンドで練習したりした。
 手塚くんは男らしいというか、頼れる男だった。怖いものが無いような、そんな雰囲気だ。中学生の頃僕らは友人たち数人で、近所のおばさんがやっていた小さな学習塾に通っていた。たしか夜9時までやっていたが、その帰りに僕は暗い夜道が怖くなって、今度ジュースおごるから、と言って家まで付いて来てもらったことも一度あった。恥ずかしい話だ。
 そんな彼はなかなか難しいところもあって、理由も分からないままキレられて嫌われるなんてことが何度かあった。そして彼との最後の付き合いだと記憶しているのは、中学3年生の頃、サッカー部の練習中の出来事だ。僕はキャプテンをつとめていたこともあって、当時サッカーには本気で取り組んでいた。まあ簡単にいえばその気持ちに温度差があって鬱陶しかったのだろう。やる気の無いプレーをしていた彼に注意をした後だった思うが、小柄だった僕は次にボールを持った時に、簡単に吹っ飛ばされた。その後どんな展開になったか憶えていないのだが、その日が手塚くんと直接的に関わった最後の日だ。その後も言葉を交わしたことが無い訳ではないが、お互いに気を遣っていて、そしてお互いにそれを感じながら気まずいまま、中学校を卒業してそれきりだ。
 あんなに仲の良かった人と全く付き合いが無くなる。あんなに仲の良かった人をいつの間にか忘れる。そして、全く想像もできない出会いがまたある。
 僕は手塚くんが今どうしているのか、そんなに気にならない。けれど、こうしてかつての友人のことを思い出して、自分が過ごした過去に思いを向けてみると、なんだかちょっとうれしい気持ちになった。

 去年cawaでの個展のオープニングパーティーに合わせて行ったポエトリーリーディングにて読んだもの、をすこし書き直したもの。さっき書いた「いつの間にか忘れる」というのもすこし訂正しなければならない。記憶とか経験の積み重ねの下敷きになっているだけで、こうやって奥の方にちゃんと残っているのだから。